■第四回■
ストッパー(水島新司)

『ウフフフフ。しかしこれもまた、仮の姿よ…』

【作品概説】
 プロ野球チーム・大阪ガメッツにドラフト外・契約金なしで入団した三原心平(みはらしんぺい)。彼は到底、プロで通用するほどの実力はない。最高球速はせいぜい時速130キロ。変化球も二流。あるのはずば抜けて早い足だけである。それでも彼は、技術とハッタリとイカサマを駆使して、試合を決定付けるストッパーとして活躍する。その胸の奥に『遠大な計画』を秘めながら…。
【所感】
 私が数ある水島作品の中で一番好きなのがコレである。というのも、主人公に特徴があるからだ。水島作品に限らず、多くの野球漫画では主人公がピッチャーの場合、力のあるストレートで押していくか、もしくは魔球じみた決め球を持っている。しかし心平にはそれがない。超遅球(注1)、山なりボール(注2)、左右両投げ(注3)など、力がない故に色々な工夫をして打者に立ち向かう。たった一つ、打たれない球はあった。それはスピットボール(注4)である。いざという時にはこの球で切り抜けるのだ。当然、不正を暴こうとする審判との戦いもある。およそ普通の主人公ではない。また、一度ファーム落ちした後には、一番センターとなり、試合終盤にリリーフとしてマウンドに上がるようになる。このスタイルが大好きだった。
 中盤、心平はチームを買い取り、自らがオーナーとなる。『自分の球団を持ってプロ野球に殴りこむ』というのが心平の遠大な計画なのであるが、この頃になるとチームがメインとなり心平個人の戦いは少なくなる。それは少し残念だったが、次々に個性的な選手が登場し、違った面白さがあって良かった。
 力不足でありながらストッパーとして活躍し、センターとしては初の四割打者を目指し、また選手でありながらオーナーとして球界に旋風をもたらした快男児の物語が私にはたまらなく痛快であった。
 なお、余談ではあるが、この作品中において東京メッツ(注5)も登場する。鉄五郎たちとの戦いも非常に興味深いものになっている。(2005年3月7日)

(注1)時速80キロの超スローボール。心平にとっての究極の球がこれであった。
(注2)打者のはるか上空からストライクゾーンを通過しつつ落ちる球。スピードがないため、実際にはそれほど打ちにくくはないようだ。
(注3)心平は普段はサウスポーだが、本来は右利きである。右の方が球威はあるがコントロールは今一つだった。
(注4)ボールにワセリンを塗ったりヤスリで傷を付けたりして回転などをかかりやすくし、通常では起こらない変化を起こす。もちろん違反投球。
(注5)水島新司の作品、『野球狂の詩』に登場するチーム。岩田鉄五郎、火浦健、水原勇気、国立玉一郎など魅力的な選手を数多く抱える。

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