■第八回■
拳児(松田隆智・藤原芳秀)

何ものも求めない者は、すべてを得、
 自我を捨てると宇宙が自我になる
          −エドウィン・アーノルド−

【作品概説】
  『みんなと仲良くするために拳法をやる』。剛拳児(ごうけんじ)は大好きな祖父にそう教わり、中国拳法を学んでいた。しかしある時、祖父はかつての友人に会うためにと中国へ旅立ってしまう。それから連絡のないまま数年、拳児は立派な少年に成長していた。
 高校生になった拳児は拳法を学んでいくうちに、様々な人と関わり合い、ついには祖父を探しに中国へと向かう機会を得る。中国各地を舞台に拳法修行を兼ねた長い旅の果てに、拳児は何を掴むのか。
【所感】
 一言で表現するなら、『漫画で良く分かる中国拳法』。拳児が学ぶのは某格闘ゲーム(注1)等で今ではすっかり有名になってしまった八極拳(注2)だが、本作ではそのほかにも、太極拳、少林拳、八卦掌、心意六合拳など色々な拳法を紹介している。原作の松田氏は中国拳法を深く理解しているため、読んでいて実に分りやすい。中国拳法と聞くと、何やら怪しげに感じる人も多いだろう。しかしこの作品はそういった様々な疑問に回答を与えてくれる(注3)。
 この作品において最も重要なのが、中国拳法の技術的な紹介のみにはとどまらず、その根本の思想まで掘り下げて紹介しているということだ。拳児は老師(注4)たちに度々、むやみに闘わぬよう諭される。それは拳法は決して相手を傷つけるために学ぶのではない(注5)からだ。拳児は技ととともに心を学んでいき、ついには高校生にして悟りを開いたかのような状態にまでなってしまう(!)。武道を学ぶ者が到達すべき一つのゴールがこの作品には示されている。
 なお、この作品で度々紹介される李書文(注6)について描かれている外伝もあるので、併せて読んでおきたい。(2005年5月8日)

(注1)もちろんセガのアレのこと。この主人公が敵を倒すのに何発も必要とするのを見るたびに「功夫が足りない」と思ってしまう。
(注2)河北・滄州を発祥とする拳法。その特徴は打撃において強烈な爆発力を用いるというもので、八極門はこれまでに数多くの名人を輩出している。
(注3)「ワン・インチ・パンチって実在するの?」、「メチャクチャ強い老人なんてホントにいるの?」、「太極拳って本当に闘えるの?」といった疑問も解決することでしょう。
(注4)中国では先生のことを老若男女問わず「老師」と呼ぶ。
(注5)『みんなと仲良くするために拳法をやる』というのも、これに通じる思想である。
(注6)李氏八極拳の創始者。「ニの打ちいらず」とまで呼ばれた達人で、数々の逸話が残っている。

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