■第十回■
CIPHER(成田美名子)

「罪が門口で待ち伏せている おまえは これを 治めなくてはならない」
 けれどカインは 弟アベルを殺した
 「私の罪は大きく とても負いきれません 私に会う人々は 私を殺すにちがいない」
 「おまえを殺すものは 七倍の罰を受けるだろう」
 主は 人々がカインを殺さぬよう その額にしるしをつけた
 −カインは 地にさまよう さすらい人となった

【作品概説】
 ニューヨークのハイスクールに通うアニスは、同じ学校に通う俳優・シヴァに「友達になりたい」と交際を持ちかける。シヴァと友人となってから数日後、彼女はシヴァとその双子の弟であるサイファが『二人一役』でシヴァとして交代で学校に通っていたことを知ってしまう。その理由を教えてもらうため、アニスは二人とある賭けをすることになる。そしてそれをきっかけに、シヴァとサイファ、それぞれを取り巻く世界は変わっていく。
【所感】
 古い作品で、私が読んだのも連載が終了してからずっと後のことですが、それでも今だに好きな作品です。あ、ちなみに少女漫画です。
 前半はアニスが双子を追うような形で物語が展開していきます。この頃はアメリカのハイスクール・ライフを描くといった感じの内容ですが、作品中盤からだいぶ内容が変わってきます(注1)。これ以降はあまり好きではないという人もいるらしいですが、私はここからが本番だと思っています。ディーナが事故死した時のシヴァとサイファの心情を思うと、涙が出てくるほどにキツイものがありますが、この事件がなければ二人はずっと閉じた世界で生きるだけの人間になっていたでしょう。
 ニューヨークとロサンゼルス、それぞれに別れて暮らすことになってしまった二人。そしてそれぞれ得た友人によって、これまでと違う世界を知っていくようになります。アニスの登場によって二人は、双子とはいえお互いは違う人間である、ということを自覚し始めてはいますが、それが完全なものになったのはこの別居の時期ではないでしょうか。これまでなるべく他人とは関わらないようにしていた二人。自分以外に大事な人間がいるとしたら、兄弟だけだった二人が他人を大事にするようになる。また、大事にされていることを知る。こうして大きく成長した二人がニューヨークで再開します。このシーンが大好きです。特にシヴァとサイファがハル(注2)やレヴァイン(注3)に『双子の割りに全然違う』と言われた時。二人はこう言われて何だか嬉しかったと思います。私もなんとなく嬉しかったです。
 この作品は、他人を愛し、愛されることの大切さを教えてくれます。作中でも、それを知った二人だからこそ、母親と和解することができたのだし、シヴァもサイファを許すことができたのだと思います。閉じた世界を抜け出し、人との関わりを大事にするようになった彼らは、色々とありましたが本当の幸せを掴みました。現実世界でも閉じた世界で生活している人(注4)が多くいるようですが、そんな人達の前にアニスやハル、レヴァインのような人たちが現れたら変わっていくんだろうなぁ、と思います。
 なお、この作品には、主人公を変えた続編(注5)がありますので、興味のある方はそちらもどうぞ。 (2005年6月5日)

(注1)ヒロインであるアニスはこの頃からめっきり出番が少なくなります。ちょっと残念…。
(注2)サイファがロスで知り合った友人。本名、竹下春臣。日系人。ちょっと変わり者だけど、ホントにイイヤツ。
(注3)シヴァがサイファと別れてから知り合った友人。本名、アレクサンドラ・レヴァイン。女のような名前と外見。でも中身は体育会系。シヴァいわく、「ロマンスとヴァイオレンスが同居している」。
(注4)現代日本では、平日の昼間からずっと家に篭っているような人が多いみたいですねぇ。今、モニターの前に座っているあなたは大丈夫ですよね?
(注5)『ALEXANDRITE』という作品で、レヴァインが主人公です。

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