■第十ニ回■
巨人の星(梶原一騎・川崎のぼる)

巨人軍という星座のどまんなかで
  ひときわでっかい明星となって光れ!かがやけ!』

【作品概説】
 星飛雄馬(ほしひゅうま)は父・一徹(いってつ)に『巨人の星』となるために幼い頃から野球を叩き込まれる。そんな父親に反発する飛雄馬であったが、ある日、草野球で王貞治と出会い、『野球は命をかける値打ちのあるもの』であることに気が付く。その後、高校へと進学した飛雄馬は花形満(はながたみつる)をはじめとする様々なライバルと出会う。念願の巨人軍へ入団した後も、『巨人の星』たらんと野球に命を掛けるのであった。
【所感】
 もはや古典と読んでもいいくらいに誰でも知っている野球漫画です。私が魔球好きになったのもこの漫画の影響です。そもそもこの作品は、ちょっと大げさな所(注1)はあるものの、当初は普通の野球漫画でした。ところが、飛雄馬がプロ入りした後、球は速くても軽い(注2)ことを思い知らされ、直球だけではなく変化球を覚えようとします。この時にアドバイスを受けたのが金田選手です。飛雄馬は金田選手に『俺がお前だったら既成の変化球には目もくれんな。自分で新しい変化球を編み出す』と言われます。新しい変化球…。それこそがかの有名な大リーグボール(注3)なのです。この大リーグボール、一応の理論付けのようなものはされていますが、はっきり言って大ウソです。高校生の頃まではしっかりとした野球理論に支えられていたのですが、この頃から現実離れしていきます。私自身は必殺技的なものが好きなので受け入れることができましたが、世の中にはこれ否定する人もいます。しかしそれがこの作品の良さを損なっているとは思えません。この作品の素晴らしさ、メインテーマは飛雄馬の命がけの姿にあるのですから。
 飛雄馬の野球に打ち込む姿はともすれば異常なほどです。野球のためにそのほかのことを全て投げ出しています。正に己の全てをかけている、という表現が相応しいでしょう。大リーグボールによって『巨人の星』となったものの、選手生命を縮めることになりますが、『死ぬ時はたとえドブの中でも前のめりに』と望む彼はためらうことなく投げ続ける。そんな姿が胸を熱くさせます。スポーツに限らず、自分が生きる世界においてこれほどまでに情熱をかけている人は珍しいでしょう。当の巨人軍にも見当たりません。自分も飛雄馬のように生きたい、とまでは思わないまでも、きっとその姿に憧れる、そんな作品です。(2005年7月4日)

(注1)小学生の花形が車を乗り回していたり、飛雄馬が腹いせに投げたボールに対して『その球に挑戦する』とバットを構えて木陰から左門が飛び出して来たりと結構、ツッコミどころが多かったりします。
(注2)よく言われる『球質』というやつです。球が軽いと打球が良く飛びやすく、重いと飛びにくくなります。珠の重さは体重、握力、球の回転などによって変わってくると言われますが、飛雄馬の場合は体が小さいことが災いしたようです。
(注3)1号から3号まであります。1号はボールをワザと相手のバットに当てて凡打にさせるというもの。2号は今では定番となった消える魔球。3号はバッターのスイングが起こす風によってボールがバットをよけるというものです。3号の場合、腕にものすごい負担がかかり、これが飛雄馬の選手生命を短くしました。

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