■第十三回■
マーズ(横山光輝)

この地球の人類というのはどの星の生物よりも質が悪い
  この地球人類の歴史をひもといてみろ それは戦争の歴史だ』

【作品概説】
 海底火山の噴火により隆起した秋の島新島。そこに現れた記憶喪失の少年は、人類が残忍な性質を持った場合に地球を爆破するために他星から送り込まれた無性生殖人間(注1)の一人だった。しかし予定よりも早く目覚めてしまったマーズは記憶を失い、それを忘れてしまっていた。マーズと同じ使命を持つ六人の仲間達はマーズに本来の使命を教え、その遂行を促す。しかし人間が悪しき存在であるとは思えないマーズは、六神体(注2)を操り襲い来る六人達と人類を守るために闘う。果たしてマーズは人類を守ることができるのか?
【所感】
 横山光輝と言えば数多くの作品(注3)を残してるが、そんな中でこの作品はそれほどメジャーなものではない。しかしこの作者の作品の中で私が最も衝撃を受けたものだった。という訳で今回はこれを紹介したいと思う。
 はっきり言ってこの作品、途中までは普通のストーリー展開と言って良い。マーズが人類と協力して、次々と迫り来る敵と戦うといった感じで割合と地味に物語は進んでいく。六神体が全て破壊されればガイアー(注4)も爆発し、いずれにせよ地球が滅ぶ、という設定が物語にいくらかの緊張感を持たせてはいるものの、基本的にその進行は淡々としている。しかし衝撃は最後に起こる。六神体全て退け、人類を守りきったマーズが人類の醜さを知り自らの手で地球を爆発させてしまうのだ。以前、紹介した『デビルマン』(注5)同様、人類が救われたかと思いきや自らの行いによって滅亡するというラストになっている。しかもこの作品、地球爆発後は語りが入るだけで余韻も何もなくあっさりと終わらせている。こういう物語のラストは、『今まで人間は罪深いことをたくさんしてきたけれども、これからは反省して良い世界を作っていこう』というのが王道なのだろう。しかしこういった結末であったために、かえって私の中では強く印象に残るようになった。むしろこの作品は、人類への警鐘、というよりもこの作者による人類滅亡の予想図なのではないだろうか、と私には感じられる。(2005年7月18日)

(注1)簡単に言ってしまえばクローン人間のように生殖によって生まれたわけではない人間のこと。おそらく、地球を爆破させればその場にいる者たちも無事では済まないため、『使い捨て』のような感じで送り込まれたのではないかと思う。
(注2)いわゆるロボット。世界各地に隠されていた。第一の神体はウラヌス、第二の神体はスフィンクス、第五の神体はウラエウス、そして第六の神体はラーという名前だが、第三、第四の神体の名前は作品中には登場しなかった。
(注3)私の周りの多くの人は、まず『三国志』を思い浮かべるようです。後は『バビル2世』、『鉄人28号』、『仮面の忍者赤影』とか。たまに『魔法使いサリー』という人もいますが。
(注4)マーズが操るロボット。その体内には地球を消滅させられるほど強力な爆弾が仕込まれている。
(注5)『漫画博覧会』第七回参照。

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