■第十四回■
東京BABYLON(CLAMP)

あなたは東京がきらいですか?

【作品概説】
 古来より日本を霊的に守ってきた陰陽師の頂点に立つ皇一族。その十三代目当主にして高校生である皇昴流(すめらぎすばる)は霊的な事件の解決を仕事としている。姉の北都(ほくと)、そして昴流に恋する(?)桜塚星史郎(さくらづかせいしろう)に支えられながら、東京を舞台にさまざまな事件を解決していく。
【所感】
 私がCLAMPを知ったのはこの作品が最初です。今ではもうすっかり有名になってしまいましたが、当時はまだそんなでもなかったかと思います。一巻の表紙を見て、そのセンスに惹かれ内容も知らずに買ってしまいました。
 この作品は、いわゆるブラックジャック系(注1)です。全体的にほのぼのした雰囲気ではありますが、取り扱っている内容はいじめや強姦、老人問題、身障者、幼児虐待など現代の日本人が抱える問題がほとんどです。東京が舞台になっているのも、そういう問題が多いからなのではないでしょうか。私自身、こういった事件などは存在することはもちろん知っていますが、実感として感じたことはありません。しかし登場する人達の感情をストレートに表現したセリフは、例え直接的な経験がなくとも読んでいてドキッとさせるようなものが多くあります。
 ともすれば暗くなりがちなこの作品をほのぼのとした雰囲気にしてくれているのが、昴流の姉の北都ちゃんです。個人的にはすごくお気に入りです。可愛くて優しくて面白くて、そしてちょっと変わった考え方をしています。簡単に他人に同情しない、けれど大切にするそんな素敵なお姉さんです。この人のおかげで事件前の日常パートは底抜けに明るくなっています。しかしその一方で、シリアスパートでは救いがないような展開なんかも結構あったりします。私的には、子供を殺された母親のために御魂寄(注2)をしてあげる話(注3)が一番キツかったです。
 この作品のもう一つの見所は、謎の獣医・桜塚星史郎とのカラミ(注4)です。皇一族と対立する暗殺者集団・桜塚護であるはず(注5)の星史郎は、なぜか昴流が好きなようで色々と尽くしています。しかし度々、星史郎が口にする『賭け』という言葉から、星史郎の行動は本心からのものではないということが推察されます。この二人の関係には一体、何があるのか?それは物語終盤に明かされますが、残念ながらこの作品の中では決着がつかないまま終わりになっています。
 一本一本のドラマをしっかりと作られ、心に深く残るこの作品。現代社会の中で忘れがちになってしまう人間として大切な思いを再認識させてくれる、良作だと思います。
 なお、二人の決着を見たいという方は『X』(注6)をご覧ください。(2005年7月31日)

(注1)私が勝手に呼んでいるジャンル。何かのプロが主人公のヒューマンドラマっぽいやつのこと。『ザ・シェフ』とか『P.A.』なんかもこの部類に入るんじゃないでしょうか。
(注2)簡単に言うと死者の魂を呼び寄せる術。
(注3)『子供は復讐よりもお母さんに幸せになって欲しいと願っているはず』と、御魂寄をしますが、呼び寄せた子供は『犯人をこらしめて欲しい』と言い出します。その声が聞こえない母親に、昴流は『お母さんには幸せになって欲しいと言っています』と嘘をついてしまう、というお話。
(注4)念のために言っておきますけど、ホントにはカラんで(?)いないですから。
(注5)自分では明言していないが、北都はそう認識しているし、昴流もそうではないかと思っている。何しろ昴流の目の前で術を使ったりしているくらいなのだから。
(注6)同じくCLAMPの作品。地球を救う『天の龍』と地球を滅亡へと導く『地の龍』の戦いを描いています。その中で昴流は天の龍の一人として、星史郎は地の龍の一人として登場します。

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