■第十七回■
麻雀飛翔伝 哭きの竜(能條純一)

『あンた、背中が煤けてるぜ』

【作品概説】
 哭き麻雀(注1)を得意とする雀ゴロ・竜は、その持ち前の強運から桜道会をはじめとする極道たちに見込まれることとなる。その力があれば日本制覇も可能と思わせるほどの強運を求め、彼らは竜に挑む。竜はそんな男達を次々に倒していくが、そのために極道の世界に深く関わりこむことにもなるのであった。
【所感】
 麻雀をやっている人でこの漫画を知らない人はいないだろう。誰しも一度は煙草を右手に挟んで『ふっ』と言ったことがあるはずだ。それほどまでにインパクトの強い主人公である。とにかく竜は麻雀が強い。ありえないぐらいに強い。ドラや役牌を『あたりまえのように』ドンドンツモって来る。そして誰もが予想しない上がり方(注2)をする。最初の頃はそれなりに台詞もあり、考えていることも書かれていたが、だんだんと無口になっていく。中盤以降は発する言葉は謎かけのようなことばかりになってしまう。ほとんど喋らず、ただひたすら鳴き、あがっていく。そんな姿が非常に印象的である。
 さて、物語の方はと言えば、麻雀はあまり関係ない。いや、関係ないことはないのだが、話の中心はヤクザの抗争なのである。やたらと強い竜を従えれば強運を我が物とでき、極道としてのし上がっていけると考えた男たちが竜の周りに集まってきて、麻雀をするのだ。そうやって竜はヤクザにつきまとわれるようになるのであるが、竜自身は全く別の世界の人間のように生きている。何を考えているのかも全くわからない。読んでいるうちに竜はあたかも神のような存在で、彼を狙う侠(注3)たちは本当にタダの『人間』に見えてくる。そんな彼らの竜に対する呼びかけはなんだかカッコ良く見えてしまう。この作品の持つ独特の雰囲気を一度、味わって欲しい。(2005年9月12日)

(注1)正しくは『鳴き』。麻雀は通常、順番に山から一枚ずつ牌を取ってきて上がりを目指すものだが、他人の捨てた牌を拾ってくることができる。それが鳴きである。
(注2)サンアンコーをわざわざサンカンツにしたり、チンイツかと思ったらジュンチャンだったり…。
(注3)『おとこ』と読む。『漢』と書いて『おとこ』と読ませる作品は多いが、この表現はほかの漫画ではないだろう。

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