■第十八回■
タイガーマスク(梶原一騎・辻なおき)

虎だ!お前は虎になるのだ!!

【作品概説】
 アメリカプロレス界で反則の限りを尽くし、全米を恐怖のどん底に叩き落したレスラー・タイガーマスクが日本のマットに現れた。彼は実は孤児院「ちびっこハウス」で育った日本人・伊達直人(だてなおと)であった。日本に帰国した彼はちびっこハウスの経営難を知り、「虎の穴」(注1)を裏切ってまでハウスを救う。この時から、タイガーの戦いが始まったのだった。
【所感】
  梶原一騎の漫画らしく、主人公であるタイガーマスク(伊達直人)はストイックである。飛雄馬(注2)やジョー(注3)と同様に、その命を懸けて闘った男である。しかしそれは自分の栄光のためにではなかった(注4)。全国の恵まれない孤児のために虎の穴を裏切り、いくつものデスマッチを乗り越えてきた(注5)のである。飛雄馬のようにその根本が一徹に強要されたわけでもなく、また、ジョーのように社会への反抗といったスタンスも一切ない。当然のように他人のために自分の全てを投げ打った、まさに究極の愛の戦士と呼ぶにふさわしい人間である。
 タイガーがこのような人間になったのは、その育ちに原因があるのではないかと思う。彼はジョーと同様、伊達直人は孤児であった(注6)が、ジョーが一匹狼であったのに対し、伊達直人は人々とのふれあいを求めた。それは彼が孤児院で育ったためではないかと思う。特に直人が暮らした「ちびっこハウス」は非常に良い環境であったのだと思われる。それゆえ、自分の命を顧みることもなくちびっこハウスの子供たちのため、そして全国の孤児のために戦い続けたのであろう。ジョーはニヒルでクールであったが、直人は子供たちに尽くし、馬場や猪木たちとの決別には涙を流すような人間であった。彼がこのような人間になったのはちびっこハウスのお陰であり、また、自身もそのことを理解していたので、全国の孤児たちのためのちびっこハウスとしてのみなしごランド(注7)の建設を考えたのではないだろうか。その夢は叶うことなく突然の終わりを迎えるのであるが、私利私欲は一切なく戦い続けた愛の戦士の物語をぜひ皆さんにも知ってもらいたい。
 タイガーマスクに興味を持った方は、プロレススーパースター列伝を読んでみるのもよい。こちらでは実在したレスラー・佐山タイガーについて紹介されている。(2005年9月28日)

(注1)世界中から身寄りのない子供を見つけては悪役レスラーへと養成する機関。虎の穴の卒業生はファイトマネーの半分を虎の穴に納めなければならない掟がある。
(注2)『巨人の星』の主人公・星飛雄馬のこと。
(注3)『あしたのジョー』の主人公・矢吹丈のこと。タイガー、飛雄馬、ジョーともに梶原一騎の生み出したキャラクターである。
(注4)何しろ、チャンピオンの挑戦権を得た時には、チャンピオンになれば桁違いの収入を得てさらに孤児たちに尽くせる、と考えるほどである。
(注5)タイガーマスクはその試合の半分以上がデスマッチであった。
(注6)この対比はよく出てくる!要チェックや!!
(注7)全国の孤児のための施設。遊園地のような施設に加え、家庭の愛情を知ることができる施設を作ろうと考えていた。しかしこのネーミングセンスはどうかと思う。しかも一番最初に工事を着手したのはシンボルのタイガーマスクの像だし…。

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