■第二十一回■
実録たかされ(本宮ひろ志・江川卓)

これが「怪物」江川卓の真実だ!

【作品概説】
 かつて高校野球界において、『怪物』と呼ばれた投手がいた。そう、作新学院の江川卓である。彼は高校卒業後、紆余曲折を経て読売巨人軍に入団する。その背景には様々な人物や出来事があった。この作品は、江川卓、読売巨人軍、そして空白の一日の真実が語られたドキュメンタリーである(注1)。なお、今回は巨人ファンの方は読まない方が良いでしょう。

【所感】
 私はアンチ巨人軍だ。阪神ファンだからではない。読売が嫌いなのだ。その原因ははっきりしている。私がプロ野球というものを知ってから、江川の巨人軍入団についての話を聞いた。ドラフト制度をバカにしたような入団(注2)。私はそれが許せなかった。そのため、巨人軍と江川が大嫌いだった。しかしこの作品を読んだ後、江川に対する感情は少し変わった。おそらく、この作品を読めば江川が嫌いだという人も好きにはならないまでも多少、見方が変わるのではないかと思う。
 江川の巨人軍入団についての経緯については敢えてここでは触れない。詳しく知りたい人はぜひ、この作品を読んで欲しい。私が思うに、元々、江川は『何が何でも巨人軍に入りたい』という訳ではなかったのではないだろうか。周りの大人達が『江川卓は巨人軍にいくもの』と考え、また、そのために行動していたことによって、江川自身も何となく『自分は巨人に行くんだな』と考えるようになったといったように思われる。そして江川卓という巨大な才能、あるいはその才能がもたらす影響力に引き付けられた大人たちによって江川は翻弄されていたように感じる。読売(巨人軍)、政治家、父親といった社会あるいは江川卓個人にとって強い影響を持つ大人達、江川が従うしかない相手達が、常識や理性を忘れて取った行動による被害者であったように思う(注3)。この作品を読んで以来、私は江川に同情的になった。真に糾弾されるべきは巨人軍であろう。しかしペナルティは江川のみに課せられ、球団には何らお咎めなし。これでは巨人が日本プロ野球機構を舐めてしまう。いや、実際、もう舐めているか。この江川事件はこれまで読売が行ってきた悪行の一つ(注4)に過ぎない。しかしこの事件すら、江川に押し付けて江川の悪口のみを言う人は多い。そんな人たちには、ぜひこの作品を読んでもらいたい。
 一人のプロ野球ファンとして、プロ野球が正しき姿を持つことを願って、今回はこの作品を紹介した。(2005年11月5日)

(注1)タイトルの「たかされ」というのは、「たかが野球 されど野球」という意味。
(注2)もちろんあの『空白の一日』事件のこと。
(注3)マスコミは彼のことを『一人前の男のくせに』というような書き方をした。江川自身が自分のもたらす影響というものをもっと強く考えていたなら違っていたかもしれない。しかし、実際、社会に出たことのない人間にそこまでのものを求めるのも酷であろう。そういった意味ではマスコミすらも彼の才能に振り回されていたとも言える。
(注4)スタルヒン、別所、桑田…。ちょっと調べただけでもゴロゴロ出てくる。これが『球界の紳士』のやることかね?

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