■第二十二回■
BANANAFISH(吉田秋生)

君は1人じゃない
 ぼくがそばにいる
 ぼくの魂はいつも君とともにある

【作品概説】
 ストリートキッズのボスであるアッシュ・リンクスは、ある日、襲われている一人の男に出会う。その男は『バナナフィッシュ(注1)』という謎の言葉を発し、彼にカプセルを手渡す。そのカプセルはアッシュのボスであるコルシカマフィアのディノ・ゴルツィネが探しているものであった。アッシュはカプセルの在り処をゴルツィネに尋ねられるがそれには答えず、独自にカプセルと『バナナフィッシュ』の謎を追うのであった。

【所感】
 連載されたのは少女誌ですが、内容的には『少女漫画』という感じはまったくありません。登場人物も男ばかり。それもオッサンが多い!内容的にも青年誌で連載されても不思議はないようなものとなっています。
 物語前半は『バナナフィッシュ』が何なのかを探る展開、後半はアッシュのかつての先生や軍人を敵に回しての戦いと非常にスリリングです。特に後半は話の軸がバナナフィッシュの謎から主人公であるアッシュへと移っていきます。エイジとの友情、敵がブランカ(注2)だと知った時の動揺…。冷静沈着な天才として描かれていたアッシュの心の動きが目立ってくるようになります。こうした描写がこの作品を名作たらしめていると考えます。ユーシスは何の力も持たないエイジがアッシュと心を通わすことを非難しましたが、それに対してエイジは自分がアッシュを大事に思うようにアッシュが自分を大事に思ってくれている、それには何ができるとかは関係ない、と考えます。これこそが真実の友情ではないでしょうか。そうしてエイジと心を通わせたからこそ、アッシュはブランカと笑って別れることもできたし、死ぬ時も笑っていられたのだと思います。容姿、頭脳、戦闘力全てにおいて非凡な力を持つアッシュでさえ、それらよりも友情を取った(注3)。ここに人間の一つの真実があるのではないかと思います。
 ところでこの作品、舞台はアメリカですが、この作品ではアメリカの暗黒面(注4)が描かれています。私は日本人であり、アメリカについてそんなに詳しい訳ではないので、描かれているものが真実であるのか誇張が含まれているのかまでは分かりませんが、それでもアメリカの恐ろしい一側面を見たような気がしました。(2005年11月22日)

(注1)サリンジャーの小説から取ったらしい。私は読んだことはありませんが。
(注2)アッシュのかつての先生。ロシア人。アッシュは彼から銃器の扱いや格闘術、戦略戦術の立て方などを教わった。
(注3)ゴルツィネの跡継ぎとしてその能力を活かし、地位と名声を手にするよりもエイジとの友情を大事にした、ということ。
(注4)異常性嗜好者や政府による兵器としての薬品開発など。

マンパクトップに戻る  ホームに戻る