■第二十六回■
P.A.(赤石路代)

『女優ってのは
  人間を好きな人間がやるものだと思う』

【作品概説】
 大物俳優と演技派女優の間に生まれた16歳の女子高生・小早川志緒(こばやかわしお)。天才的な演技力を持つ彼女ではあったが、大女優・永沢さゆりの未婚の子として生まれたために華やかな表舞台に出ることはできなかった。そんな彼女はプライベート・アクトレス(注1)のアルバイトを通じて、様々な人の人生に関わっていく。

【所感】
 テレビドラマ化された(注2)ために知っている人もいるかと思うが、話はいわゆるブラック・ジャック系。作者はベテランの実力者であるため、人間ドラマもしっかりと描かれており、話自体もどんでん返しが結構あったりとバランスの良い出来になっている。
 この作品の一番の魅力は主人公である志緒だと思う。見た目は大女優の血を引くだけあって美少女であるが、ただの可愛い女の子という感じではない。ちょっと乱暴な言葉遣いで惚れっぽい彼女だが、頭は切れるし、言動や行動はバイタリティに溢れていてカッコイイと感じる。P.A.でなくとも、彼女ならばなんだってできるだろう、と思わせるほどである。相手が自分に害をなす人間やどんな悪人であっても真正面から接する志緒の姿には尊敬すら覚える。おそらく彼女がそうなったのも、自身が言うように『人間が好きだから』であろう。幼い頃から苦労したであろう彼女は、どんな人間であっても相手のことを深く理解することができる。志緒は自分のことを『すぐに壁を作ってしまう』タイプだと言ったが、彼女が相手にしてきた人達もまた、真に心を通わせることができる者がいなかった人間が多い。そういった人達の心の中に入っていける志緒だからこそ、悪徳政治家もナマイキな子役も変わっていったのではないだろうか。彼女が本当の女優としてデビューする時、これまでP.A.として関わって来た人達が皆、彼女のために手を貸してくれるようになったのも、そんな志緒の人柄によるものであろう。
 ところで志緒の恋人である羽村知臣(はむらともおみ/注3)についてであるが、彼はちょっと物足りなく感じた。確かにスゴイ人であろうが、それが結果でしか示されていない。志緒は様々な依頼をこなしていく中で読者にその能力や人格などを見せているが、知臣にはほとんどそれがなかった。大女優は国王とだって結婚できる、ということで彼は大実業家になるために登場したのであろうが、読者にとっては志緒の方がスゴイ人だと思ってしまうのではないかと思う。極端な話、彼は志緒のスゴさを演出するための小道具に思えてしまった。彼自身にもうちょっと、活躍の機会が欲しかったと思う。(2006年1月21日)

(注1)P.A.とも呼ばれる、個人を対象とした女優。友人のフリをしたり、行方不明の人間の代わりをしたりと便利屋的な部分もある。
(注2)主演は榎本加奈子。1回だけ見たことがあるが、志緒を演じるのは榎本加奈子に限らず無理だと思った。ドラマそのものとしてはちょっと変わった演出でそれなりには楽しめた。
(注3)志緒が所属するプロダクションとはライバルである会社に所属するP.A.(プライベートアクター)。生まれに複雑な事情を持ち、やはり天才的な役者である、志緒の一番の理解者。

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