■第二十九回■
沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)

『まず私は…
  人類史から戦争を根絶することは
  いかなる方法によっても不可能だと考えている』

【作品概説】
 犬吠埼沖で会場自衛隊潜水艦「やまなみ」が事故により沈没。艦長・海江田四郎(かいえだしろう)をはじめその乗組員は全て死亡してしまう。しかしそれは実は偽装事故であり、彼らは日米共同で秘密裏に建造された原子力潜水艦「シーバット」の乗組員として選ばれたのであった。だがシーバットは試験航海中にアメリカの指揮を離れ、独立国家「やまと」を宣言する。彼らの目的は、世界政府の樹立とその指揮の下で、原潜の核ミサイルにより世界平和を実現することであった。

【所感】
 国会でも取り上げられた作品です。(注1)政治家も軍人もジャーナリストも己の全てを賭けて闘っている、男の世界(注2)の典型とも言える作品です。登場人物達の言葉は、飾りや偽りなどない本音の言葉(注3)で、みんな分かっているけどあえて触れなかった部分などを取り上げたりしています。そのため、読んでいるうちに色々と考えさせられることでしょう。
 この作品は政治がらみの話と戦闘シーンのバランス配分が非常に良く、また、分かりやすく描かれています。潜水艦による戦闘は専門用語も知らない素人でも読んでいるうちに何となく分かるようになっていますし、政治の部分も細かい部分は省略して簡潔に表現されています。政治・軍事それぞれの分野において細かく見ていけば色々と目に付くことはある(注4)と思いますが、『漫画』というエンターテイメントとしては非常に良く出来ていると思います。
 この作品の戦闘シーンにおいて海江田は、まるでゲームでもやっているかのように一手一手を進めていきます。そして鮮やかに勝利を重ねていくのです。そこには、戦争の悲惨さ、醜さは一切、見られません。しかしそれは『沈黙の艦隊』を設立するために、やまとが世界最強の軍事力であることが前提となっているためだと思われます。やまとを沈めることができる力は存在しないということを世界と読者が納得するために必要な手法だったのです。
 最終的に世界は、そして海江田はどうなったのかまでははっきりと描かれないうちにこの作品は幕を閉じます。しかし私はそれでいいと思います。世界中の国々が海江田の思想・行動を受けて、本当の意味での『世界』というものを考え始めた。そしてそれは人類の行く先に希望を感じさせるものだったのだから。(2006年3月4日)

(注1)1990年に公明党の山口議員が取り上げた。
(注2)基本的に登場人物は男のみ。女性は最後に一人だけ、ちょっと登場するぐらいです。
(注3)特にアメリカ大統領のベネットの言葉は「コレがアメリカの本音なんだろうな」と思わせるものが多くあります。
(注4)潜水艦が飛ぶとか、革新系政党を一つにまとめあげるとか…。

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