■第三十五回■
スラムダンク(井上雄彦)

バスケットはお好きですか…?

【作品概説】
 中学校3年間、女の子に振られ続けた赤い髪の主人公・桜木花道(さくらぎはなみち)。高校に入学した彼は、同じく新入生の赤木晴子(あかぎはるこ)からバスケットボール部への誘いを受ける。晴子に一目惚れした花道はバスケのことも良く知らないまま始めることになる。

【所感】
  バスケットボールの漫画と言えば真っ先にこれを思い浮かべる人が多いくらいの名作です。バスケというのは競技人口の多さの割りに日本にはプロもなく、また、バスケを扱ってヒットした漫画というのはほとんどありません。その原因というのは色々とあるでしょうが、その一つに「バスケをやっていない人にバスケの面白さを伝え切れていない」というものがあると思います。しかしこの作品はバスケの魅力をあますところなく、しかも非常に分かりやすく伝えています。
 この作品の素晴らしいところは、主人公を桜木花道にしたことにあると思います。普通の人なら流川(注1)を主人公にしてしまいそうですが、パワーフォワード(注2)というどちらかと言えば目立ちにくいポジションに主人公を据えた、ということに大きな意味があるのです。主人公がパワーフォワードだったお陰で、バスケを知らない人にはよく分からないリバウンド(注3)の重要性やスクリーンアウト(注4)の必要性を自然に説明することができています(注5)。そういった部分を描くことによって、試合の描写にも広がりが生まれています。
 また、花道だけでなくチームメイトやライバル達も魅力溢れたキャラクター達で、この作品を盛り上げています。試合内容も回を追うごとに面白くなっていき、特に最後の山王工業戦は手に汗握る展開となっています。山王工業戦終盤の花道から流川へのパス、そして流川から花道へのパスは感動すら覚えます。
 笑いあり、感動ありの本格的スポーツ漫画の金字塔とも言えるでしょう。(2006年5月29日)

(注1)流川楓(るかわかえで)。花道のチームメイトで晴子の好きな男。普段は無口で無愛想な男だが、バスケは超攻撃的で高校生離れしたプレーをする。ポジションはスモールフォワードという、いわゆる点取り屋。
(注2)ゴール下での得点とリバウンドが主な役目のポジション。NBAで言えばデニス・ロッドマンやカール・マローンなどが有名。
(注3)シュートが外れた時にその球を拾うこと。
(注4)ゴール下などで背中や腰などを使って相手の動きを抑えること。これで相手をゴールの真下から外に追いやれば、リバウンドも楽に取れる。
(注5)同じように素人の花道を主人公としたために、バスケの初歩的なことも自然に説明できています。

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