■第三十六回■
キャットルーキー(丹羽啓介)

チームに貢献しただの… もらった金の分だけ仕事をしただの…
 そんなことはもう、どーでもいい……
 オレはあいつに… 勝ちたい!!

【作品概説】
 万年最下位の弱小プロ野球団・大和トム・キャッツ。経営危機に陥ったトム・キャッツは、優勝しなければチーム解散という状況に追い込まれる。果たしてトム・キャッツは優勝を手にすることができるのか?

【所感】
  もしかしたら私が一番好きかもしれない野球漫画です。まず面白いと思ったのが作品の構成。この作品は三部構成になっており、いまはなき近鉄バッファローズ(注1)をモデルにした大和トム・キャッツというチームの数シーズンの闘いを描いています。ですから、上記の作品解説も第一部のあらすじです。
 この作品はタイトルが示す通り、第一部は雄根小太郎(おすねこたろう)、第二部は四方二三矢(しっぽうふみや)、第三部は寅島球地(とらしまきゅうぢ)と三ヶ月心(みかづきしん)といった具合に、それぞれのシーズンのルーキーが主人公になっています。各主人公達は特徴がハッキリしており(注2)、同じチームにいながらも見事に役割などがかぶらないように上手く描き分けられています。また、ライバル達も能力やその存在などによって上手くそれぞれの主人公に対応(注3)させています。
 そんな中でも私が一番好きなのは第三部です。特にウィザード・ドライブ(注4)の発想には惹かれました。そして雄根や四方という圧倒的な力を持つ先代、先々代の主人公たちと一緒にいてもしっかりとその存在を示しているのは見事というほかありません。
 作者はかなりの理論派のようで、野球部分に関してはなかなかに深いところを見せてくれます。また、一発勝負の高校野球とは違う、プロの闘いということもあって、同じ相手との闘いであっても色々な種類・展開の試合を描いています。
 新しい主人公が加わるたびにチームは強くなっていきますが、ライバル達も特徴のある強力な選手(注5)として描かれているため、ペナントレース終盤での直接対決などは燃える展開となっています。
 現実の近鉄バッファローズは一度も日本一になることなく、消滅しましたが、代わりにトム・キャッツがその夢を果たしてくれました。元近鉄ファンはもちろん、全てのプロファンに読んでもらいたい作品です。(2006年6月13日)

(注1)オリックスと合併し、現在はオリックスバッファローズとなっています。
(注2)雄根はトルネード投法の球界最速投手、四方は陰陽師の家柄出身で小さい体ながらもパワーヒッター、寅島は科学者系キャッチャー、三ヶ月は奇術師出身の魔球を操る投手、とかなり変化に富んでいます。
(注3)正統派野球人・雄根のライバルは甲子園準決勝での対戦相手・清本。陰陽師の家系の四方のライバルはこれまた陰陽師の血を引く九条。野球にあまり詳しくない三ヶ月のライバルはやっぱり野球は素人のアポロ。
(注4)いわゆる『消える魔球』の一種だが、目で追えない変化をする、しかも相手が右打者専用というかなり独特な発想の消える魔球。
(注5)デーモスやバードン、九条、アポロなんかは主人公達よりも上といった印象を受けるくらいです。

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