■第四十二回■
俺たちのフィールド(村枝賢一)

多くの人の運命を変える力を持つ小さなボール。
 その小さく重い球が今、蹴り出される!!

【作品概説】
 Jリーグ発足から遡ること7年、サッカー日本リーグ・ヤマキ自工のエース・高杉貫一(たかすぎかんいち)を父親に持つ少年・高杉和也(たかすぎかずや)は、いつか父親とJリーグでプレイすることを夢見ていた。

【所感】
 作者自身はそれほどサッカーに詳しいわけではなかったという(注1)。しかしそれでもこれは上質な『サッカー漫画』だと思う。サッカーのシーンをカッコ良く描く画力はもちろんのこと、ドラマの作り方はさすがとしか言いようがない。一つひとつのエピソードがそれぞれの試合にうまく絡ませてある上に、サッカーの部分でもしっかりと見所を作っている。
 また、W杯出場を目指す頃の話はかなり良く出来ていると思う。この作品が描かれた時のフランスW杯は偶然にも、ある意味、日本にとって最も重要な大会(注2)であったことと相まってかなりの迫力を生み出している。アジア予選での試合展開もかなり現実味を帯びた内容であり、現実におけるそのシビアさが良く分かる。さらにW杯本大会予選で現実においてもアルゼンチンと当たる(注3)という奇跡的な偶然がより一層、物語を盛り上げている。
 実在の選手をモデルにした日本代表(注4)とオリジナルキャラクターのみで構成されたもう一つの日本代表、リザーブ・ドッグスのアイディアも実に良い。現実にW杯というものが存在するため、大抵のサッカー漫画では『これまで闘ってきたライバル達と同じチームになる』というオイシイ展開があるのだが、この作品の場合にはそれだけでは終わらない。漫画の世界においてはオリジナルキャラは強くなりすぎるきらいがあるが、この作品では日本代表とリザーブ・ドッグスは伯仲した力を持っている。そのうえ、リザーブ・ドッグスが出来た経緯などのためにチーム内でゴタゴタがあったりして、『日本のベストメンバーが揃った。さあ、快進撃だ』とは簡単にいかないのである。
 ところで、この作品はサッカー漫画としてはちょっと変わった部分がある。まず主人公の修行先がアルゼンチンということ。サッカー漫画では主人公の行き先は大抵がヨーロッパとなっていることを考えれば、これは珍しいと思う。そしてそのため、最強のライバルはアルゼンチンの選手となっている。また、主人公のポジションもバリバリのストライカーやゲームメーカーというよりもどちらかと言うと守備的な場合(注5)が結構ある。さらに私が感心したのは、和也がアルゼンチンから日本へ戻った理由(注6)。欧州や南米のチームに所属するのが必ずしも良い訳ではない、としたサッカー漫画は他にはあまりないだろう(注7)。
 その他にも、Jリーグ昇格を目指しての闘い、同チームの外国人選手とW杯予選でぶつかることなども含め、日本サッカー界における様々な醍醐味を全て描いていることなど、非常に注目するべき点が多い作品である。(2006年9月5日)

(注1)嘘か真か、「なぜサッカー漫画を描こうと思ったんですか?」という質問に対し、作者は「カッコイイから」と答えたとか。
(注2)フランス大会開催前に2002年は日韓共同開催ということが決まっていたため、その前になんとしても実力でW杯に出場しなければならなかったという事情があった。
(注3)主人公の最大のライバルであるダミアン・ロペスはアルゼンチンの選手であった。もし予選で別グループになっていたら、ダミアンと闘うために、現実に反して日本が勝ち続ける展開になるか、予選グループの組み合わせが架空のものになっていたか、それともダミアンとの闘いはなしだったかのいずれかだろう。
(注4)巻園、井浜、桂谷など、明らかにどこかで見たような選手ばかり。
(注5)もちろんFWやゲームメーカーをやったこともあるが、高校の時にはディフェンダーもやっていたし、リザーブ・ドッグスではボランチだった。守備の統率、当たり強さ、カウンターのためのロングキックと主人公としては珍しいタイプの選手だった。
(注6)簡単に言うと、『自分の国で、仲間達とサッカーに燃えてみたい』ということ。
(注7)まあ、結局最後は和也もイタリアに行っちゃうんだけどね…。

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