■第四十四回■
DEATHNOTE(大場つぐみ・小畑健)

この死神が人間界に落とした一冊のノートから
 二人の選ばれし者の壮絶な戦いが始まる

【作品概説】
 そこに名前を書かれた人間は死んでしまう『DEATHNOTE(デスノート)』。たまたまそれを拾った高校生・夜神月(やがみらいと)は、そのノートを使って世の中の悪人を一掃し、世界をより良き方向へ導こうと考える。そうして犯罪者を次々と裁いていく月。いつしか世間でも悪人を裁く人物の存在が認識され、『キラ』と呼ばれるようになった。しかし、数々の難事件を解決してきた『L』と呼ばれる凄腕の探偵が、犯罪者達が次々に死んでいくというこの奇妙な事件の捜査に乗り出す。
 Lとキラ、互いが互いの正体を暴くための戦いが、今、始まる!

【所感】
 まだわりと新しい作品ですが、『死』が重なる第四十四回目ということでこの作品を取り上げてみました。映画、アニメ、小説、ゲームと現在でも様々なメディアに展開中の作品です。ちょうど今日からアニメ放映も開始となります。
 まずこの作品の一番の特徴は中心が頭脳戦であるということ。少年誌に連載されたということを考えれば、肉弾戦を伴わない完全な頭脳戦というのは珍しい。そして天才同士のこの戦いが、どこまでも広がったりしないようにちょうど上手い具合にルール(注1)が定められている。
 主人公である月はどう見ても悪役である。特に時折見せる、心の内をさらけ出している時の表情は作画者の画力もあって、どう見ても悪人にしか見えない。だが、月はノートを私利私欲のために使ってはいない。あくまで世界をより良き方向へ導くことを最終的な目標にしている。それ故、読者も月から完全に離れたりはしない。そしてライバルたるLもまた、完全な正義というわけではない。独特の動作や行動、思考や思想からも見られるように、彼は天才ではあるが奇人・変人の類である。時々、強引で無茶な捜査をしたりもするし、自分の推理を証明するために人の道から外れたことをしようともする。この微妙にバランスが取れているような取れていないような二人の対立は非常に面白い(注2)。
 こういった頭脳戦中心の物語では会話が多くなりがちだが、構図や人物の動作によって『止まっている』という印象を与えない。また、ストーリー展開もけっこう速めで、引っ張ろうと思えば引っ張れる話であっても、それほど時間を掛けずに進めている。話自体も様々な方向に展開(注3)させているため、単調さを感じさせない。こういった要素のお陰で途中でダレたりはせず、最後までテンポ良く緊迫感を持って読むことができる。
 ところで、月の最後はそうあるべき結末であったと言える。月が正しかったのか、間違っていたのかは、その根底の部分で現代社会の様々な問題(注4)にも関わる重要な命題であり、簡単に結論はでないのかもしれない。しかし、いくら彼の目的が崇高なものであったとしても、やはりニアが言うように神ならざる人の身でありながら、己の主観で他人を裁き、人の命を奪うことは許されないことであると思う。特に少年誌である以上、月のような手段は肯定されるべきではない。色々な部分で少年誌という枠から外れた作品ではあったが、やはり最終的なテーマの部分においては少年誌的であったとも言えるだろう。
 現在、これだけ色々な漫画がある中で、久々に独自性を持った作品に出会ったような気がする。そう言った意味でも、この作品は紛れもなく名作であると言えよう。(2006年10月3日)

(注1)デスノートを使うためのルール。これが月の行動に制約を設け、Lの推理の手掛かりになったりしている。
(注2)逆にメロとニアは後発のキャラなのにイマイチ、インパクト不足だった感はある。
(注3)第二、第三のキラや死神の登場、月とLの協力、1対1から1対1対1へという戦いの構図の変化など、単調な展開にならないように話を作ってある。
(注4)例えば死刑制度。例えば陪審員や裁判員。

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