■第四十五回■
鉄鍋のジャン!(西条真二)

銀座「五番町飯店」は中華の王!
 全ての中華料理人は五番町に憧れ
 全ての食通は「五番町を食べずに中華は語れない」とたたえる−
 そして今
 秋山醤はその「五番町飯店」で見習いとして働いていた!!

【作品概説】
 かつて「中華の覇王」と呼ばれた秋山階一郎(あきやまかいいちろう)の孫である秋山醤(あきやまじゃん)。彼は五番町飯店で見習いとして働きながらも、数々の料理人と『勝負』する。

【所感】
 料理漫画というのはけっこうあるが、この作品は一風、変わっている。何しろ主人公は完全なヒールなのだ。性格は最悪。傲慢、高慢、自信過剰で態度も悪ければ口も悪い。「料理は勝負」と言い切り、勝つためにはどんな手でも使う(注1)。『カカカカカカー』とまるで悪魔超人みたいな笑い方をする主人公なんてそうそういないだろう。むしろ性格といい、作る料理の内容といい、霧子(注2)の方がよほど主人公っぽいくらいだ。
 そんなおかしな主人公であるが、出てくる料理もけっこう変わっている。中華独自の食材と言えば熊の掌やハクビシン、ツバメの巣などが思い浮かぶが、そういった有名なものばかりでなく、ハトの血やトンボ・ミミズ・ゲンゴロー・ウジ虫といった虫などのトンデモナイものを使ったりしている。そのため、一体どんなものができるのか容易に想像はさせず、読んでいてかなり興味を惹かれる。また、自ら『秋山の魔法』と呼ぶ手法による、迫力ある調理シーンがそれを一層、引き立てている。
 登場するライバルも変わり者ばかりで、ジャンに負けない個性を持っている(注3)。料理人だけでなく、大谷日堂(おおたににちどう)をはじめとする料理勝負の判定員にも特徴的な人が多い。そのため判定員とのやりとりなんかもあって、普通の料理勝負中心の漫画の中と比べてもだいぶ違った印象を受けるだろう。扱われる勝負のテーマも、ダチョウの肉や鮫の肉や新しい調味料作りなど面白いものが多いのも特徴的な面である。
 物珍しい点は多いが、肝心の料理に関する解説なんかはけっこうしっかりしていて中華料理の奥深さを知ることができるし、単行本のオマケページでも色々な料理の紹介なんかもあったする。エンターテイメントとしても料理漫画としても、優れた作品であると思う。
 ちなみにおやまけいこ氏(注4)が監修を務めているが、何故か背表紙には記載されていない。(2006年10月19日)

(注1)勝つためなら、マジックマッシュルームさえ使ってしまうほどだ。
(注2)五番町霧子(ごばんちょうきりこ)。五番町飯店のオーナーである睦十の孫。モットーは「料理は心」。
(注3)ライバル達もジャンと同じく、それぞれ料理に対するモットーを持っている。例えば、「料理はコテコテ」、「料理は半歩先」、「料理は成仏」など。
(注4)余談だが、作者の奥さんらしい。

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