■第四十六回■
たのしい甲子園(大和田秀樹)

今、漢達の伝説が紡ぎだされる…

【作品概説】
 県下に悪名鳴り響く不良の巣窟・県立瓦崎工業高校。新入生・桂ケンジ(かつらけんじ)は学校をシメようとケンカに明け暮れていたが、そんな時、太田(おおた)に出会う。太田との勝負を通してその心の大きさに触れた桂は、太田のチームに入る。が、太田のチームというのは実は野球部。桂は太田率いる不良軍団とともに甲子園を目指すことになるのだった。

【所感】
 表紙からして『たのしい』という雰囲気ではないが、この作品はなかなかにスゴイ。不良達が甲子園を目指す作品としては、以前、紹介した『ROOKIES』(注1)があるが、こちらはハッキリ言って全然違う。常にハイテンションで、勢いに任せて休む間もなく突っ走るような、ギャグとバイオレンスに彩られた作品です。
 不良軍団を束ねる太田は正に漢の中の漢。普段は無口だが、時折、話す言葉は妙な深さと説得力を持ち合わせている。例え不良集団であっても、人として大切なものをしっかりと捉えている太田が中心にいる(注2)からこそ、チームとして成り立っているとも言える。ちなみに彼は、甲子園に行くのは定められた運命のようなものであると語っているが、なぜ甲子園を目指しているのは全く分からない。
 そんな彼のチームは超個性派揃い。不良達もただの不良ではなく、野球においては超A級プレイヤーばかり。それだけではなく、あり得ないくらいの金持ち・本多や「ウホ」としか喋らないゴリラのような風体でありながらも飛び級MIT(注3)に入れるほどの頭脳の持ち主の平井、そして部員ばかりでなく、タイガースファンの女子マネージャー・榎本(注4)も含め、普通の人間は一人もいないと言っても良いくらいのチームである。さらに対戦相手とその試合内容も常識外れ。野球の試合であるはずなのに、料理対決やお笑い対決が始まってしまうほどである。そのほかにも、始球式を務める首相とでさえ、真剣勝負をしてしまったりする。
 一応は野球漫画のハズなのに野球以外のエピソードが多いのも特徴。異常なくらい次々に災厄とも言える事件が起こるが、これも太田のパワーが呼び寄せているようである。最後はなぜか太田は高校生でありながら外務大臣になってしまい、火星軍の最高司令官と交渉まで始めてしまう。
 そんな常識外れの異常な作品ですが、一読してみれば楽しめること請け合いでしょう。(2006年11月3日)

(注1)『漫画博覧会』第四十一回参照。
(注2)その割りに試合には出場せず、ベンチにいることが多い。
(注3)マサチューセッツ工科大学。世界最高峰の大学の一つ。
(注4)甲子園で勝利し、校歌斉唱で六甲おろしを流すのが目的でマネージャーとなった。

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