■第五十一回■
げんしけん(木尾士目)

春−
 彼 笹原完士は意気込んでいた
 ある種のサークルに入ると決意していたからである

【作品概説】
 大学ではオタク系サークルに入ろうと決意していた笹原完士(ささはらかんじ)。そんな彼は現視研(現代視覚文化研究会/注1)というサークルに入る。この作品は、現視研を中心としたオタク達の大学生活を描いた作品である。

【所感】
 「オタク」を題材にした作品は今ではけっこうあるが、この作品ほどオタクというものをしっかりと分かりやすく描写しているものは少ないだろう。大学生活をメインとした話だが、授業やバイトなど、通常の大学生生活に関わってくるであろうものはあえて排除し、サークル室以外の場面においてもサークルと関わりのない部分は基本的に皆無である。
 「オタクとはこういうものだ」と過剰に強調したりすることはなく、あくまで普通の日常生活っぽく描いているが、それでいてオタク描写には何とも言えないリアリティがある。登場人物にも、「あー、こういう人、いそうだよなぁ」という感じの、色々なタイプのオタク(注2)を取り揃えている。そして、様々な物事に対するオタクの心理や行動なども「そういうの、あるよなぁ」という感じに、実に的確に表現している。それがまた、サークル内唯一の一般人(注3)である春日部咲(かすかべさき/注4)の思考や行動と上手く対比させられているので非常に分かりやすくなっている。
 また、当然のように現実のアニメや漫画の作品を元ネタにした様々なパロディもあるが、この作品に登場する人々はオタクであるため、しっかりとそれに対して反応する。通常の作品では何かのパロディがあってもそのまま流されてしまうことが多いが、それぞれの反応と自分の反応を比べたりもできるので面白い。作中作である『くじびきアンバランス』(注5)もかなり詳細な部分まで設定されていて、そこがまたオタクっぽくて良い。
 ちなみにこのサークルも舞台となっている大学も基になっているものがあるのだが、大学の方は私の母校ということもあって、背景を見て「あ、あそこだ」と思ったりしてなかなか楽しかった。どうでもいいことですが。
 この作品は『オタク』というものを知るための恰好の入門書であると思う。オタクの人にはもちろん、言葉でしかオタクというものを知らない人にもぜひ読んでいただきたいと思う。(2007年1月21日)

(注1)漫画やアニメ、ゲーム、コスプレ、フィギュアなどを『現代視覚』と称し、それらを研究するサークル。
(注2)ヌルい人や美形なのにオタクな人、太い人、細い人、いつもハイテンションの人…、とオタクにも色々な人がいるのです。一括りにしてはいけません。
(注3)ここではオタク趣味を持たない人のこと。
(注4)訳あって入会することになってしまった一般人。見た目は今風だが、けっこうしっかりとした考え方を持っている。
(注5)この作品はアニメ化されているが、この『くじびきアンバランス』もアニメ化された。個人的には何か違うような気がするのだが…

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