コラム(一)

消えたファンネル

ファンネル…。ニュータイプが扱う、ガンダム世界を象徴する武器(注1)。シャリア・ブルの搭乗するブラウ・ブロに始まり、その後、ZZ(注2)で大発展を遂げ、CCA(注3)では絶頂を迎える。そう、ニュータイプが扱うファンネルは逆襲のシャアが最後となる。確かにその後、G(注4)やGX(注5)、∀(注6)、SEED(注7)において同様のもの(注8)が見られるが、宇宙世紀(注9)の世界ではCCAで最後となる。ファンネルは何故、消えてしまったのか?それを検証していきたい(注10)。なお、ここでは主に映像化された作品を基準に話を進めていく。

 CCA以降のUCを描いたものとしては、F91(注11)とV(注12)がある。しかしそのどちらにもファンネルは登場しない。ニュータイプや強化人間が登場するのに、である。その理由として、いくつかの原因を考えてみた。

 まず第一に、使う必要がなくなった場合。この場合、ファンネルよりも有効な兵器が作られたということが考えられる。CCA以後で直近のものとしてF91がある。この世界においてSNRYが製作したMS・ガンダムF91の特徴としては次のようなものがある。
=ガンダムF91の特徴=
1)機体性能はそのままに小型化。
2)小型化に伴いその余剰エネルギーを別方面(ビームシールドなど)へ活用。
3)新兵器・VSBRの採用

 ここでVSBRがファンネルより優れていた兵器であったのかどうかが問題となる。VSBRの特徴としては以下のようなものが考えられる。
<VSBRの特徴>
1.MS本体のジェネレーターと直結しているため、携行のビームライフルよりも高出力を得ることができる。
2.VSBRという名(VariableSpeedBeamRifle)の通り、ビームのスピードを変えることができる。

 それに対してファンネルが他のミサイルやビームといった兵器よりも有効であったのは次の点による。
<ファンネルの特徴>
1.MS(注13)本体とは別の方向から攻撃できるため、命中率が高い。
2.Iフィールドなどの内側に入り込んで攻撃できる。
3.一度に複数の敵を攻撃できる。

 果たしてこの三つの利点をVSBRが持っていたのか。
 まずは命中率の高さ。VSBRはこれまでのビームライフルと比較して非常に速い弾速で射出できる。ということは命中率が高いと言えるだろう。
 次に対Iフィールドの有効性。ご存知の通り、Iフィールドはビームなら全て弾く訳ではない。一定以上の出力のビームには貫通されてしまう。VSBRは出力が段違いに高い。何しろ本体のジェネレーターに直結しているのだから。つまりVSBRはこの『一定以上の出力』を持つビーム兵器に当てはまると言える(注14)。
 最後に複数の敵への攻撃。こればかりはさすがに無理だろう。だがVSBRはファンネルとは違い、誰にでも扱える兵器であること、連射が効くこと、MS本体が動く限り発射できるため弾切れをあまり気にしなくて良いことを利用すれば、戦術の立て方によりこれはいくらでもカバーできる。
 こうして考えてみれば、パイロットを選ぶファンネルよりも兵器としてはVSBRの方が有効であったと言えるだろう。

 さて、二番目の原因として、扱うことができるものがいなくなった、ということが考えられる。F91において、シーブック(注15)は興味深い発言をしている。リィズ(注16)の、ニュータイプとは何か、という質問に対し、彼は、戦闘に特化した人間、という意味合いの回答をしている。幼い妹に対して簡単に答えただけなのかもしれない。しかしこの回答がシーブックに限らずこの時代での一般的な認識だとしたらどうだろう。
 ニュータイプとは宇宙に出たことにより高い認識力と深い洞察力を持つようになった人類のことである(注17)。その結果、戦闘においては活躍したことも多いが、それはニュータイプの本当の特徴ではない。シーブックの言うような認識が一般的なのだとしたら、この時代、あるいは近しい時代において、高いニュータイプ能力を持つ人間が表舞台に出てこなかった、ということが考えられる。一年戦争からシャアの反乱までには多くのニュータイプや強化人間がいたが、遠い昔の話であり、もはやシーブック達の時代では伝説のようなものになっているのではないだろうか。とすれば当然、ファンネルを扱える者がいなかった、ということになる。扱えるものがいなければ開発もされない。結果としてファンネルは廃れていってのではないだろうか。

 三番目に、製造する者がいなくなったということも考えられる。CCAまでの時代において高いファンネルの技術を持っていたのは、アナハイム社とジオン系統の企業(注18)である。しかしVの頃にはもうその名は聞かない。F91の時代において、連邦軍の制式MSはアナハイム社ではなくSNRYのMSとなった。アクシズやネオ・ジオン(注19)も消えた。つまり高いファンネルの技術を持つ企業(あるいはそれに類する者)は少なくともどこの軍にもMSを採用されなくなった訳である。

 ざっと考えてもこれだけの原因がある。理想の兵器というものは、生産性に優れ、誰が扱っても同様の戦果をあげられるものである。とすれば、コストも高いうえに一部の者しか扱えない(しかも訓練によってもどうにもならない)ファンネルという兵器は消えていって然るべきであったのかもしれない。他のロボットアニメと比較しても特徴的であっただけに残念であるが、『ガンダム』というシリーズが、ロボットを主人公であるパイロットの分身ではなくあくまで『兵器』と位置付けた時からこれは逃れようのない運命であったのではないかと思う。

注1)ビットなど、同種のものもファンネルの中に含めるものとする。
注2)『機動戦士ガンダムZZ』のこと。
注3)『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のこと。
注4)『機動武闘伝Gガンダム』のこと。
注5)『機動新世紀ガンダムX』のこと。
注6)『∀ガンダム』のこと
注7)『機動戦士ガンダムSEED』のこと。
注8)G:ガンダムローズのローゼスビット、GX:ガンダムXやガンダムダブルXのGビット、∀:ターンXのオールレンジ攻撃、SEED:プロビデンスガンダムのビットがこれにあたる。
注9)『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』までの時代。
注10)もちろん、商業的な理由やスタッフの裏事情とかいったことは一切考えない。
注11)『機動戦士ガンダムF91』のこと。
注12)『機動戦士Vガンダム』のこと。
注13)『モビルスーツ』のこと。ガンダム世界におけるロボット全般。ここを読んでいる人に今さら説明することでもないだろうが…。
注14)映像化された作品ではないが、『機動戦士クロスボーンガンダム』ではVSBRを防ぐのに二枚のビームシールドとビームサーベルを使っていた。つまりそれほどの高出力なのである。
注15)『ガンダムF91』の主人公、シーブック・アノー。
注16)『ガンダムF91』のシーブックの妹、リィズ・アノー。
注17)あくまで私の解釈です。
注18)ジオニック社ではなく、ZZ時代のアクシズやCCA時代のジオン軍のMSを作っていた企業。これらのMSを作っていたのはどこなのかまでは私は詳しくは知らないので、企業と表現したが、実際には工廠かもしれない。
注19)ハマーンのネオ・ジオンとシャアのネオ・ジオンを区別するため、ハマーンの方を『アクシズ』と表現している。

外伝目次へ戻る  ホームへ戻る