コラム(三)

海に呑まれた虎

本当は『日本一おめでとう』な文章を書くつもりだったのですが…。

=タイガース愛=
 私がプロ野球というものを見始めた時、阪神タイガースが日本一になった年。そう、あのランディ・バースが打ちまくった時である。幼い少年がそれをきっかけにファンになるのも不思議はないであろうほどの強さであった。しかしそれ以降、タイガースは『ダメ虎』と言われるほどに低迷した。田村、郭李がいた時に多少の夢は持ったが、それでも打線が追いつかず優勝には届かなかった。ノムさんが監督として就任した時も、「これでタイガースは変わる」と思ったが、その成果が現れる前に交代となってしまった。それでも地元のライオンズが何度か日本一になったので、まあ、我慢はできたが。
 そして星野さんが監督となった時、左門豊作に「銭には厳しか球団」とまで言われたタイガースのフロントは珍しく補強にお金をかけた。野村監督時代に蒔かれた種も芽を出し、ついにリーグ優勝を成し遂げた。それが2年前。前回の優勝から18年経ってからのことである。その時の日本シリーズの相手はホークスであったが、贔屓目なしで冷静に戦力を分析した結果、私は「勝てない」と思った。最終戦まで持ち込んだだけでも上出来だと思った。
 そして今年、タイガースは本当に強いチームになった。投打走守全てにおいて高いレベルにまとまったチームになった。プレーオフでどのチームが勝ち抜いてもきっと勝てる、そう思っていた。ホークスならば2年前の借りを返すことができる。マリーンズならば10年前では考えられなかった組み合わせの日本シリーズとなる。ライオンズならば地元だし、さらにあれだけレギュラーシーズンで差をつけた2チームが日本シリーズに出られないということでプレーオフ制度に一石を投じることにも繋がる。というわけで、はっきり言って私はどこのチームが勝ち抜いてきても良かった。

=予期せぬ大敗=
 今シーズンのタイガース打線は凄かった。正に猛虎打線と呼ぶにふさわしかった。一番・赤星の出塁率と盗塁数。四番・金本の準三冠王とも言えるほどの活躍。そして五番・今岡の脅威の打点数。この三人以外もそれぞれが皆、素晴らしい成績を残した。投げては下柳が最多勝、抑えのJFKも安心して見ていられた。また、橋本、江草、桟原も成長した。歴代タイガースでもこれほど安定した強さの時はなかったのではないかというほどである。
 それ故、相手がマリーンズに決まった時、私は4勝1敗でタイガースの勝ちだと思った。確かに勢いはあったし、戦力としても申し分なかった。だがそれでも日本シリーズは違うと思っていた。初めて出場する日本シリーズで十分に力は発揮できまい。特に甲子園でなんてマリーンズはまともには戦えないだろう、と。おそらく、一勝一敗で甲子園に舞台を移し、そこでタイガースが三連勝して終わり。そう思っていた。が、突きつけられた現実は厳しかった。試合をご覧になった方はお分かりだろうが、マリーンズは全てが上手く回っていた。完璧と言っても良い試合運びだった。それに対してタイガースは、まったくいいところがなかった。赤星はなかなか出塁しないし、金本・今岡はチャンスを潰す。矢野ですら送りバントでダブってしまうという体たらく。投手陣にいたっては4試合で合計33失点。まるで別のチームであった。

=無謀な横綱相撲=
 日本シリーズともなれば、当然、相手も強いチームである。受けて立つ横綱相撲では限界もあるだろう。特に勢いに乗っているチームに対して、正面から受けて立つというのは危険である。それ故、采配において何らかの工夫が欲しかったところだ。例えば投手起用。試合を支配しているのは投手である。当たり前のことだが、打てなくても打たれなければ試合には負けない。お互い点を取れないままで試合が進んだ時、日本シリーズ初経験ということに加え、メディアで何度も話題にのぼったJFKが控えていることから、きっとマリーンズには焦りが出てきたであろう。そこを突いて得点するという考えである。しかし実際にはタイガースがそういう状態になってしまった。ではそれを回避するにはどうすればよかったのだろうか?以下は私の勝手な考えである。反論のある人も当然、いるだろうが、まあ、大目に見てやってください。
 第一戦の先発投手は井川であった。これは大方の予想通りだろう。しかし私は下柳でいくべきだったと思う。確かに井川は実力も実績もある文句なしのエースだが、シーズン中はあまり安定していなかった感がある。さらにパ・リーグの選手にとっては井川のような本格派は相手にしやすい。とすれば、彼には地元甲子園で登板してもらうべきだった。敵地での第一戦であれば、相手がペースを掴みづらいベテラン下柳がベストの選択であったと思う。今シーズンは最多勝なのだから、第一戦先発投手でも何の問題もない。
 第二戦は安藤だったが、ここで福原を使う。今シーズンは今ひとつ、ピリッとはしなかったようだが、それでも十分に力はある。先発を任せても良いだろう。そして安藤は先発ではなく2年前と同様、途中から使うようにする。JFKの前に投げさせるのだ。そうすれば先発投手の負担も減り、初回から飛ばしていけるだろう。つまり橋本や江草、桟原を先発で使える可能性が出てくるという訳だ。それが無理なら、この三人を打者のタイプに合わせて1〜2回で交代するように起用し、的を絞らせない、ということもできる。まあ、このあたりは都合よく考えすぎかも知れないが、少なくとも初戦は下柳、井川は甲子園で、という考えは変わらない。そうやってまずは勢いに乗る相手のペースではなく、タイガースのペースに引き込むことこそが必要だったのではないかと思う。そうすればもう少し、攻撃面でも違ってきたのではないだろうか。
 とまあ、勝手なことを述べたが、勢いだけでなく監督、選手ともに色々な工夫を見せてきたマリーンズに対して、あまりに無策であったのではないだろうか。

=プレーオフの影響=
 よく言われることだが、パ・リーグのプレーオフはその存在自体がセ・リーグの優勝チームを不利にしている。元々、プレーオフがあることは分かっているのだし、プロならば常に万全の状態でなくてはならないというのもよく分かる話だ。しかし約1ヶ月も実戦から離れていたチームと、リーグ優勝かけて戦ってきたばかりのチームとではコンディションが大きく違うだろう。オープン戦を考えてもらいたい。いくら練習をしていても、実戦を離れていた打者が一線級の投手の球をすぐに捉えるというのは非常に難しいことなのである。ホークスが2年連続で優勝を逃したのも故なきではないと言える。これをタイガースは上手く乗り切れなかったのというのも今回の結果に結びついたのではないだろうか。そういうことを考えれば、セ・リーグでのプレーオフ導入は来年からして欲しいぐらいである。

 以上、日本シリーズについて愚痴ってきたわけですが、来年こそはタイガースに日本一になってもらいたいものです。最後になってしまいましたが、マリーンズファンの皆様、球団関係者各位、日本一おめでとうございます。正直言うと、マリーンズの野球は僕の好きな野球だったりします。それでもタイガースファンは変わらないけど。来年はお返しするから、また日本シリーズに出てきてください。

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