第五章 胎動−蠢く阿修羅

第四話 襲撃

洛那城に移る際、光明、小早川、南雲、風魔の四人で話し合った結果、将軍の死はまだ伏せておくべきだという結論に達した。これは諸国の大名、特に外様を警戒してのことである。そのため、戦も想定しての洛那入りには、家臣達にその理由を説明するのに四苦八苦したが、陽京に長期に渡って滞在することになったために将軍が過ごしやすい場所を希望した、ということで説明をつけた。
そうして洛那城に入ってから数日が経つのに、幕府方には一向に賢人の議についての連絡はなかった。だがそのことに対して、光明はいらだちを覚えることはなかった。というのも、このような状態をある程度は予想していたからである。光明は副将軍からの手紙を持ち帰った南雲と陽京守護職の小早川との会議を行っていた。
「天皇はどうしている?」
 光明の問いに対して答えたのは小早川だった。
「阿部と共に烏丸へ入りました」
「ということは朝倉は敵に回ったということだな。権力停止だけではなく、行動にも制限をかけておくべきだったのかもしれんな」
「しかしそれは、両大臣の権限ですから仕方ありません。それよりも、賢人の召集が遅れています。そのため、上皇も開催を未だ見合わせているようです」
 賢人の議は通常、天皇によって開催される。しかしその対象が天皇自身となる場合には、上皇が開催することとなっている。賢人の議は全員出席が開催条件である。そのため、一人でも日程が合わない者がいる場合には、開催を延長せざるをえない。天皇が賢人の議を開催する場合にはこのようなことはありえないが、今回は上皇による召集である。天皇と違い強力な権限を持たない上皇に従わない者がいることはある意味、仕方のないことだったのかもしれなかった。
「開催日は未だ決まらず、か。小早川、これをどう見る?」
「阿部の工作もありましょうが、神楽が原因でしょう。神楽には二つの道があります。一つは阿部の味方となり、阿部に恩を売るということ。もう一つは、以前も申し上げましたが、阿部に取って代わるということ。ただし、阿部に取って代わるということは、十条派を敵に回しながらも阿部派の貴族を上手く自分の方へ取り込まなければなりません。一方、阿部に恩を売ることは、神楽が頂点に立つことはできませんが、貴族の中で二番目の地位を安定させることができます。阿部からの働きかけも相当なものになっているでしょう。神楽はそのような状態の中で、判断を迷っている。そのため、賢人の議の開催が遅れているのではないでしょうか」
 光明は小早川の言葉を咀嚼するように頷き、じっくりと考えてから言った。
「なるほどな。では、阿部が烏丸入りしたのは?」
「これはもちろん、戦に備えてのことでしょう。烏丸は朝倉の宿城ですが、元々が宿城として建てられたものではなく、幕府樹立以前の戦乱期に陽京防衛の拠点として作られたものを宿城としているものです。烏丸は北に山、東に森を配し、大きな堀と小さな門を備えた難攻不落の城です。逆を返せば、烏丸に入ったということは、戦になった場合には野戦ではなく籠城を考えているのでしょう」
「だろうな。…南雲、お前はどう考えている?」
 先程から黙って話を聞いたままであった南雲に光明は尋ねた。南雲は静かに、ゆっくりと語り始めた。
「大筋は小早川様の仰られた通りでしょう。ただ、一つ気にかかるのは、阿部が賢人の議と戦のどちらに重きをおいているか、ということです」
「どういうことだ?」
「賢人の議を重視しているとすれば、烏丸に入ったのはあくまで念のためであり、賢人の議に向けての裏工作をしているでしょう。もし戦を重視しているとすれば、戦のための準備を進めていると思われます。…もっとも、どちらに重きを置いていたとしても、それぞれに対応できるようにある程度の準備はしているでしょうが」
「それはそうだろうな。しかし阿部も所詮は貴族。武家を相手に本気で戦に勝てるとは思っていまい。おそらくは賢人の議に向けての裏工作を行っている最中であろう。仮に戦になったとしても、烏丸があるからと安易な籠城を選ぶ時点で程度は知れている。こちらとしても、公平に賢人の議が執り行われるよう、貴族連中に働きかけるべきだろうな」
 光明がそう結論を出した時、部屋の外から声がした。
「会議中、大変申し訳ございません。しかし、早急にお知らせしなければならないことがございまして…」
 部屋にいた三人はお互いに顔を見合わせた。そして軽く頷くと、光明は入室を許可した。入ってきたのは小早川の部下で、陽京の旗本である沢近であった。
「何があった?」
「天皇が辞任致しました。また、阿部が太政大臣、賢人を辞任し、自らが治める陽京以外の荘園は全て宮家に返還するとのことです」
沢近は光明からの答えを待った。驚いて口の利けなくなった光明の代わりに小早川が確認した。
「真か?」
「すでに読売にも書かれてあります。間違いないでしょう」
「ご苦労だった、下がってよい」
沢近が退室した後、しばらく三人とも黙っていたが、やがて南雲が呟くように言った。
「…まさかこういう手で来るとは」
「どういうことだ?」
 光明の質問に答えたのは小早川だった。
「賢人の議が開催されない可能性が強くなったということです。今回は左右両大臣から発議によるものですが、貴族の中には国内外にあまりにも影響が大きいので公式には処理せず、帝国皇子誘拐の事件に関して幕府の責任を問わない代わりに天皇、阿部に何らかの処分を下すことで決着をつけるべきだとする意見があります。もちろんその『処分』は、賢人の議が開催された場合とは比べ物にならないほど軽微なものですが。…天皇・阿部が自らその職を手放し、公式の場から引退を宣言したとなると、その潔さを評価したり、また、同情する声が強くなるとが予想されます」
「だがそれでは両大臣が黙ってはいないだろう?」
「申し上げにくいことですが、阿部が太政大臣を辞任することにより、右大臣が太政大臣に、左大臣が右大臣になります。また、返還された荘園は賢人達に再分配されるでしょう。阿部の今回の行動は賢人の議の開催を取り止めることを条件にとられたものであることは想像に難くありません。そして現天皇が辞任すれば、自動的に第一皇子が天皇に即位することになります。天皇に関しては他の役職とは違い、『任命』ではなく最も高い継承権を持つ者が『即位』することによって就任するものです。つまり反対する権利を持つ者がいない、ということです。そしてその後見には阿部派の貴族が立つでしょう。表舞台から身を引いた阿部は、裏からこれらの貴族を操るつもりだと思われます。結局、傀儡が代わるだけで、阿部にとっては実質的に何も変わらない、ということです」
 複雑に変わっていく状況に対し、まだ少年に過ぎない光明が判断を下すのは困難であった。しかし彼は、それを恥とは思わず、最も適切な手段を持って対応することを第一に考えた。
「どうすればいい?」
「賢人の議の発議は賢人によってしかできません。それにほとんどの賢人に阿部の息がかかっているとなると、開催したところで意味はないでしょう。戦を仕掛けるにも、理由が立ちません。天皇と阿部に正式に処罰が下される以上、それを糾弾することもできませんから」
「ではこのまま、指を銜えて阿部のやりようを見ているだけなのか?」
 光明は口惜しそうに拳を握り、声を震わせて呟いた。しばらく沈黙が続いたが、やがて南雲が口を開いた。
「では、最後の手段をとりますか」
「何かあるのか?」
 期待するような目で光明は南雲を見た。南雲は表情一つ変えずに言った。
「上皇を味方につけます。上皇を後見人として、現天皇の後継者に第二継承権を持つ能伸皇子を即位させるのです」
「なるほど。新天皇の座を巡っての戦を仕掛ける、と」
「はい。しかし上皇を味方につけるとはいえ、天皇はあくまで高い継承権を持つ者から順に即位していくものと律令にも定められています。こちらの言い分は正当でない、力押しのものとなりますが、民衆を味方につければなんとかなるでしょう」
「他に方法はないのだろう?なら、それで行くしかない」
 光明の瞳には決意の光が宿っていた。

「なあ、気が付いているか?」
「何がだ?」
 様々な機器によって四方を埋め尽くされた部屋。様々な計器が目まぐるしく動き、設置されたモニターにその内容を映し出している。そのモニターの前で、レオンはBPに尋ねた。
「近くに船がいる。たぶん、世連のものだ」
「ああ、そのことか。何日か前からずっとだぜ?」
「…目障りだよな」
「まあ、表立っての活動がやりにくくはなるな」
 BPの方はそれほど事態を重くは見ていないようだった。レオンは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「追い払うか」
「この場所が割れるかもしれんぜ?それで放ったらかしにしていたんじゃないのか?」
「確かにそれはある。だがこれ以上、この辺を探られるのも面白くない」
 二人の会話を聞いていて、少し離れた場所で何やら機械をいじっていた女性が叫んだ。黒いタイトミニのスカートを履き、黒いショートジャケットを羽織った灰色の髪の女性、メディア・ジュエルである。
「はいはぁい、わたし行く」
「魔神は出せん」
 レオンはあっさりと彼女の方も見ずに申し出を却下した。
「何よぉ、フーのことでも気にしてるの?」
「馬鹿なことを言うな。魔神をそう簡単に世連のやつらに見せる訳にはいかないというだけのことだ」
「つまんないわね」
 彼女の不平をよそに今度はBPが提案した。
「じゃ、キャノンセクトでも出しとくか。確かここにも二十機ほどあったはずだ」
 メディアの時とは異なり、レオンは今度はしばらく思案してから答えた。
「三分の一、七台だな」
「ああ、そんなもんだろうな。あのクラスの船じゃ、モーターフィギュアもいいとこ四、五台ぐらいしか積んでいないだろうし」
「うん、じゃあぺヴに伝えてくれ」
「了解」
 BPがパネルを操作すると、左前方のモニターにスイッチが入った。そこに映し出されたのは基地内の格納庫の様子であった。広い空間には大小様々な機体が並び、それを一人の男がいじっていた。背は低いが筋肉質で色黒、モヒカンヘアーに顎までびっしりと生えた髭はその身長とは裏腹に相手に威圧感を与えるには十分だった。下半身は黒いズボンに黒いブーツ、上半身は素肌の上から黒いベストを羽織っている。服装、肌の色、髭、体格などから、黒い塊がそこにあるかのように見えた。
「ペヴ、ちょっといいか?」
 BPがパネルのボタンの一つを押しながらそう言うと、その男、ネフメ・ペヴはモニターに近づいてきて、太く低い声で尋ねた。
「BPか。どうかしたのか?」
「キャノンセクトを出す。大丈夫か?」
「いつでも行けるが…。世連の連中でも攻めて来るのか?」
「こっちから行くのさ。ちょうど近くにいるもんでな」
「分かった。で、全部行けるが、どうする?」
 BPはいつもどおりのおどけた様子で答えた。
「おいおい、戦争するんじゃあるまいし、そんなに出せるかよ。とりあえずは七台。後は状況次第で追加もあるかもな」
「じゃあ、すぐに用意する」
「こっちに攻撃目標のデータがある。と言っても映像だけだけどな。それをインプットしたらすぐに出してくれ」
「ああ、ちょっと待ってろ」
 やがて七機のキャノンセクトが基地を出た。この機体は蜂の様な姿を持ち、頭部にバルカン砲、足にマシンキャノン、そして針に当たる部分にキャノン砲を装備している。基本的には自動操縦であるが、プログラムにより複数による連携攻撃が可能となっている。この時もペヴは七機による連携攻撃プログラムをインプットして出撃させた。
 レオン達のいる基地はアウス海に点在する島の一つの地下に作られている。そのため、出撃も海中からのものとなる。キャノンセクトは海中を進み島から離れた位置、ちょうどNOAHの停泊している場所から見て島とは正反対の位置から海上へ出た。これは基地の位置を特定されないようにと、レオンから指示があったためである。そしてそのまま五十メートルほど上昇すると、七体の蜂は連なって弧を描くように移動し、NOAHへの攻撃を開始した。
 NOAHはしばらくされるがままに攻撃を受けていたが、やがて副砲や機銃での反撃を開始した。その様子をモニターで見ていたBPは笑いながら言った。
「あんな攻撃でセクトを捉えられるものかよ」
 BPが言うようにキャノンセクトは機動性が高いらしく、NOAHからの反撃はかすりもしなかった。その代わり、キャノンセクトも威力の低い武器しか持たないため、NOAHへのダメージはまだそれほど深刻なものとはなっていなかった。
「どうやら向こうも、それは分っているらしいな」
 レオンがそう言うとNOAHの側面が開き、二体のモーターフィギュアが発進した。
「たったの二機かよ」
 その様子を見たBPは馬鹿にしたように笑った。それとは対照的にレオンは冷静そのものだった。
「そのようだな。メディア、機体の照合を」
「了解。…両方とも、クリスティーナの時のやつね」
「やはりそうか。どちらかでも落とせれば理想的だな」
 静かにそう呟いたレオンにBPはからかうように言った。
「恨みは深いか?大事な娘を傷物にされたからな」
「馬鹿なことを。…いや、そうだな」
 そう言うとレオンはボタンを押して格納庫のペヴを呼び出した。
「何だよ、忙しいんだよ。いくら自動操縦だって、俺がここで見てなきゃならないんだからな。二体もモーターフィギュアが出て来ちゃ、パターンを変えなきゃならんし」
「そのことなんだが、あの飛行機を集中的に狙ってくれ」
「船じゃなくていいのか?」
「ああ、構わん。一機落とせばどちらにしても逃げるだろう」
「分かった、やってやるよ」
 それだけ言うと、ペヴの方からモニターを切ってしまった。レオンが外の様子を確認しようと振り返った時、BPが言った。
「おい、どうするよ?オマエさんが無駄話している間に三機、落とされたぜ」
「何だと」
 そう叫んでレオンがモニターを見た瞬間、また一機が撃墜された。
「セクトをこうも簡単に落とすなんて…」
「奴等、コンビネーションがいいな。戦艦と一体のモーターフィギュアが砲撃で回避位置を制限して、飛行機が狙い撃ちしてるぜ」
「回避プログラムが解析されているんじゃないかしら?」
「こんな短時間にか?そりゃないだろう」
「のん気に分析している場合か」
 BPとメディアのやりとりを聞いていたレオンは怒鳴った。そして再びペヴを呼び出した。
「おいおい、奴等一体何者だ。こんな短時間にキャノンセクトが三機もやられるなんて、初めてだぜ。追加を出すか?」
 モニターに出たペヴも狼狽していた。
「いや、多少数を増やしても同じことだろう。かと言ってそんなに数は出せん。残ってるのをすぐに戻せ。このままじゃ、全滅だ」
「ああ、そうさせてもらう」
 そうしてペヴがコントロールパネルに近づこうとした時、BPの声がした。
「もう終わったみたいだぜ」
 レオンは驚いて振り返った。モニターの向こう側でペヴも足を止めていた。
「馬鹿な、七機全てか」
「どうする?」
 レオンはモニターの様子を確認すると、椅子に腰を下ろして舌打ちした。
「戦艦たったの一台でこちらに来るだけあって、奴等も伊達ではない、ということか」
 額に手を当てて考え込んでいると、メディアがレオンの傍に寄って来た。
「今度こそ、わたしが行くわ。いいでしょう?」
「そうだな…」
 レオンは何かを思案している様子だったが、ややあってから言った。
「任せよう。ただし、一人じゃダメだ。ペヴと行け。いいな」
 メディアは一切の異議を唱えず頷いた。そしてそのまま格納庫へ行き、ペヴに声を掛けた。
「ね、ペヴ。出撃だって」
「だろうな。七機ものキャノンセクトをやられちゃあな。…整備は済んでいる。気を付けて行って来い」
 近くにあった箱に腰掛けたまま、ペヴはなげやりな声で答えた。
「何言っているのよ、あなたもよ」
「何だって?」
「レオンからの命令よ」
「あのガキ、俺にお守りを押し付けやがったな」
 ペヴは悪態をついた。その言葉にメディアが反応した。
「お守りって何よ。自分で言うのも何だけど、実戦経験は少なくてもわたしは超一流のパイロットよ」
 ペヴは溜息混じりに答えた。
「お前さんの腕前は知っているよ。戦闘中に恍惚状態になって見境いがなくなることも知っているし、それが原因で防衛戦で自分の基地を半壊に追い込んだことも知っている」
 そう言われ、メディアは慌てて言い繕った。
「変なこと言わないでよ。あれは…、事故よ事故。言ってみれば、そう、不可抗力ね」
「そうかい?まあしかし命令じゃ仕方ねぇな。我慢してやるか」
「それはこっちの台詞。本当はわたしも一人の方が気楽だけど、命令だからあなたと行くのよ」
「ああ、ああ」
 ペヴは軽く受け流して自分の機体の方へ向かった。メディアも壁に掛けられたキーボックスから起動キーを取り出して自分の機体の方へと向かった。
「行くわよ、ジュリエット」
 メディアの乗り込んだ機体は上半身は翼の生えた人間の形をしていたが、下半身は蛇のように長く、鱗のような表面は格納庫内の照明を乱反射させていた。
「準備はいいか?」
 メディアがシートに座って起動キーを回した途端、ペヴからの通信が入った。メディアはキャノピー越しにペヴの機体を眺めた。魚型の頭部を持ち、その首から下は人間の骨格を思わせるデザインになっている。
(あのジェーンっていうのは、いつ見ても醜悪な機体ね。わたしのジュリエットとは比べ物にならないわ)
 そんなことを考えていたが、口には出さなかった。
「いつでもどうぞ」
 メディアはそう答えると、ペヴと共に基地を出た。もちろんこの時も海中を進んでから浮上した。
「いたわ。あれがそうね。行くわよジュリエット」
「照準、ロックシマス。」
 メディアの声に対して音声が発せられる。メディアは攻撃を開始した。腰からミサイルを発射し、右腕に持った両端が二股に分かれている棒状の武器を振るった。するとその先から稲妻が発射された。モーターフィギュアも帰投し無防備に停泊しているかのように見えたNOAHであったが、バリアーやジャマーを作動させてはいたらしく、ミサイルは船体を逸れて海中に潜って爆発し、稲妻は船体の手前で弾けて消えた。だがそれでもミサイルや稲妻によって衝撃を受けたNOAHは大きな波によって揺らされていた。
「生意気ね。バリアーなんか張ってるわ」
「さっきの攻撃で敵さんも警戒しているんだろうよ」
「まあね。それより今度は、何機出てくるのかしら」
「さあな」
 流すような返事はしたものの、メディアの言うことも確かに気にかかった。向こうが体勢を整える前にと、ぺヴも攻撃を開始した。背中から無数の薄い金属片を飛ばし、手に持った銛のような武器からはビームを発射した。ビームはABFによってかき消されたが、金属片はバリアーを切り裂いてNOAHに突き刺さった。そしてその金属片は船体に突き刺さったまま爆発した。
 メディア達による攻撃を受けたNOAHの内部は、当然のように混乱していた。
「くっ。さっきはジャマーとバリアーで防げたが、今度は直撃だ。さっきの蜂の攻撃とは威力が全然違う」
 衝撃に揺れるNOAHのブリッジでルノーは近くにあった椅子に掴まりながら言った。
「どうする、また出るか?」
 踊るようにバランスを取りながらペギラはラナンに尋ねた。正面のモニターに写る二体の魔神を見つめながらラナンは言った。
「あんなの二体は相手にできない。逃げるが勝ちだ。どこかに転移はできるか?」
「そんな、こんな状態じゃ無理ですよぉ」
 泣きそうな声でニナは答えた。ラナンは舌打ちしてモニターを見つめたが、すぐに次の指示を出した。
「とりあえず離水しろ。そうしたらすぐに魔神とは逆の方向に最大船速で逃げ出すんだ」
「了解」
 ミーナとニナはパネルを操作した。NOAHは攻撃を受けながらも空中へ上がり、一瞬の間をおいて大陸方面へと飛び立った。乗組員は皆、執拗な追撃が来るものと思っていたが、魔神は追っては来なかった。
「どうしたんだ?」
 モニターの中で次第に小さくなっていく魔神を見つめ、ラナンは呟いた。
「町への被害なんて考える連中じゃないのに、妙だな」
「まあ、助かったんだし、いいんじゃない?」
 ペギラはどこまでも楽観的だった。
「そうね。これだけ離れれば大丈夫でしょう」
 ミーナは請合ったが、ラナンはそろそろ真剣にこの世界から逃げることを考えなければならないと思った。
 一方、NOAHを追い払ったメディア達は基地に戻ってリーダーであるレオンに報告した。
「任務完了よ」
 笑顔のメディアとは正反対に、レオンは渋い顔をしていた。彼女もその様子を見て不審に思った。
「どうしたの?任務完了よ」
 レオンは一つ溜息をついて言った。
「何故、追撃しなかった?」
「だって、追い払うのが目的でしょ?」
 メディアは自分が咎められている理由が分からなかった。
「それはそうだが、あそこで攻撃を止めたらここに何かあると誰だって思うぞ」
 メディアはようやくレオンが不機嫌な理由が分かった。そして彼の言うことももっともだと思ったが、敢えてなだめるように言った。
「大丈夫よ。あの人達、訳も分からず逃げ出したって感じだったし、もしここに何かあると思っても手出しなんか出来ないわよ」
「ああ、そうだな」
 レオンは一応はメディアの言うことを理解したように答えた。
(そんなに甘いものじゃないだろう。所詮、民間のテストパイロット上がりには分からないことか)

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